就業規則に関するよくある3つの誤解
これらの誤解のせいで会社は損をしています
当事務所では、就業規則の相談を多く受けているのですが、皆さん誤解していることが多いと感じます。
しかも、その誤解があるおかげで就業規則を作りこまないという判断になったり、社員に見せないという判断になったり、企業にとってマイナスになることが多いようです。
そのため、ここでは就業規則に関する良くある誤解を解きたいと思います。
良くある誤解。その1
就業規則なんて、社員のために存在するものであって、会社にとっては何の得にもならないのでは?
それなら就業規則は作らない方がいいのでは。
このように「就業規則」は社員の法律上の権利が書かれてあって、会社には何にも特が無いと勘違いしている方が非常に多いです。
もちろん、社員が持っている法律上の権利も記載しますが、会社にとって重要な点もたくさんあります。
例えば、懲戒理由は重要で、就業規則に書かれていないことで社員を懲戒処分にしたとしても、争われると会社がほぼ負けます。
世の中でも、「人の物を盗んじゃダメだ」と法に書かれているから罰則を与えることができる訳で、法に書かれていないことで罰則を与えることができません。
同じように会社という組織の中では、就業規則がルールになりますので、ここに書かれていないことで罰則を与えることができないという事になるわけです。
そのため、就業規則を作らないということは、社員を指導したり罰則を与えたりする根拠が会社にほとんどない状態を作り上げているということになります。
今回の誤解は、すごく危険です。
もし、誤解している場合はすぐに認識を改めることをおすすめします。
まとめ
「就業規則を作っても、会社にとっていいことが無い。」というのは完全に誤り。
むしろその逆で、就業規則が無いと社員を指導したり罰則を与えたりする根拠を失っている。
良くある誤解。その2
就業規則を作り込んだ方がいいと言うが、ガチガチに作ることで、会社に裁量がなくなるのが嫌だ。それなら作り込まない方がいい。
どうも皆さん、「就業規則を作り込む」という話を聞くと、「ガチガチにルールが決まってしまって、全てその通りに実行しないといけなくなって、会社に裁量がなくなる」と勘違いしているようです。
そんな規則が無ければ、会社の裁量で場面ごとに判断できるから良いと思っているようなのですが、そもそもそれが誤解です。
むしろ、ルールが無い状態では、場面ごとに会社が裁量で判断するという根拠がありませんので、争いになった際には負ける可能性が非常に高くなります。
例えば、社員が勤務当日の朝に電話してきて「体調が悪いので、今日は休ませてください」と言ってきたとします。
これは、良くあることですね。
そして、そこからが問題です。
この当日になって急に休みたいと連絡をしてきた欠勤に対して有給休暇を使えるのでしょうか?
有給については、一般的は決められた日までに申し出ることで取得することができると考えられますので、会社としては当日の休みに対して有給休暇を使わせないということも十分に行えます。
でも、実際はどうでしょうか?
いつも真面目に働いていて、休むことなんてほとんどない社員が、たまに風邪をひいて当日休んだとしたらどうですか?
会社としては、有給休暇を使わせてあげたいと考えるのが通常ではないでしょうか。
では、逆に普段の勤務態度が悪く、遅刻や休みも多い社員が、風邪をひいて当日休んだ場合はどうでしょうか?
その場合は会社としては、有給休暇を使わせたくないと考えると思います。
これはある意味、当然の感情だと思います。
では、上記のとおりに会社の裁量で差別的な運用をしたらどうなるか。
そもそも、有給取得に関する細かいルールが設定されていなければ上記のように運用するには、その根拠がありません。
何を持ってして会社が裁量で決めることができるかというルールが無いわけですから、 簡単に言うと、争われると負ける可能性が高いということです。
問題社員ほど権利主張をする傾向がありますので、上記の運用をすればその社員は間違いなく文句を言ってくるでしょう。
そして、運用根拠が無いわけですから、争われれば就業規則を作り込んでないという理由で負ける可能性が高いということになるわけです。
当日欠勤を有給に振り替える場合も、規則でこのような理由により会社の裁量により行うと記載すればその通りで良いが、書いていない場合はそもそも裁量で行う根拠がないということです。
つまり、今回の誤解は、認識が180度も違うということになります。
すごく危険な誤解ですね。
まとめ
「就業規則を作り込んだ方がいいと言うが、ガチガチに作ることで、会社に裁量がなくなるのが嫌だ。それなら作り込まない方がいい。」というのは完全に誤り。
むしろその逆で、規則を作り込むことにより会社の裁量権を生み出すことができる。
良くある誤解。その3
いざという時は、就業規則を見せて「ほら、こうなってるだろ」と言えるようにしたいので就業規則は作る。
就業規則は作るが、社員に見せたくないので棚の奥にしまって、どこにあるか分からないようにしたい。
こういう会社もちらほら見かけます。
そのように言う理由を経営者に尋ねてみるといくつかパターンが見えてきます。
一つは、就業規則を見せることで、有給休暇などの日数を確認できるのが嫌だ。また、規則に影響を受けた社員があら探しをしたり、変な権利主張を始めるのが嫌だ。(つまり、寝た子を起こしたくない。寝たままにしておきたい)
うーん。ずいぶん考え方が曲がってるなぁと思います。
有給休暇なんて、規則を見せようが見せまいがネットで調べればゴロゴロ出てきますし、変な権利主張をしてくる社員に対抗できるように就業規則を作り込むのもその目的の一つなので完全に的外れです。
他のパターンとしては、「こんな規則なんかで、ギスギスしたくない。こういったものを超えたところで労働者と関係を作りたい」というケース。
このパターンについては、言いたいこともその気持ちもすごく分かります。
社員とそういった関係性を築くのは大切ですが、順番が違います。
これについては、別の記事がありますので参考にしていただければと思います。
また、就業規則を周知することは労働基準法106条で求められていますし、更に判例では、懲戒処分の有効性を判断する際に就業規則を周知していることも要件の一つとされました。(フジ興産事件 最高裁二小判決 平15.10.10)
つまり、せっかく作り込んでも労働者に周知していない就業規則は法的効力が大幅に落ちるのです。
これだと、何のために作り込んだのか分かりませんよね。
まとめ
労働者に周知していない就業規則は、法的効力が大幅に落ちる。
作り込んだ就業規則なら、自信を持って労働者に周知して、権利ばかりを主張してくるような社員に対抗できるようにしましょう。
良くある誤解。番外編
就業規則の作成を依頼するときに、相見積を取るのは当たり前だ。
複数にメールや電話で問い合わせをして、見積を出してもらおう。
これも本当に多いですが、非常に危険な行為です。
当事務所にも、メールで簡単な希望をが届き、その内容で見積書を送って欲しいという連絡がよく来ます。
正直に言って、そんな簡単な希望を送られてきただけでは、具体的にどのような規則を作成する必要があるかどうか全く判断できませんので、見積なんか作りようがありません。
就業規則を作成するときは少なくとも以下の内容について聞き取りを行わなければ、作成に取り掛かることもできません。
- 会社の規模・業種
- 現在ある規則の内容
- 実際の今の会社の悩みは何か
- どのような運用が行われているのか
- 給料の計算方法はどのようにしているのか
- 職種ごと、社員の種類ごとに差はあるのか
- 未払い残業はあるかどうか
- なぜ就業規則を作ろうと思ったのか
- 今後どうしていきたいのか
- 他にもたくさん
そのため、簡単な希望だけを送られてきても、どのような規則を作らなければならないのかが全くつかめないのです。
そんな状態で、見積書だけ送ってくれと言われるということは、そもそもその会社は就業規則に対してその程度の認識しかないということになります。
その状況で就業規則の作成を依頼しようと考えているのなら、とても良い規則ができるとは思えませんし、依頼料がもったいないです。
そのため、上記のような考えであれば、もう少し就業規則の重要性を学んでから依頼するか、メールなどではなく直接相談に行っていろんな話を聞いて、その重要性をつかむことをおすすめします。
その上で、見積を取り、そして一番信頼できると感じたところに依頼をすれば、今までとは見違えるような規則が完成することは間違いありません。
まとめ
メールや電話で、さっさと見積を出させるという考えを持っているのなら非常に危険。
就業規則の重要性とその内容の深さを学んでから見積を取ることが大切
就業規則に関する誤解を解消したうえで、しっかりと整備することが大事
今回は3つの誤解(プラス番外編)を説明しました。
しかし、今回紹介したのは特に多い3つの誤解で、実際はもっと多く存在します。
その誤解のせいで会社は、間違った行動をして、逆に損をしています。
あなた(の会社)は、損をしていませんか?