先日、社員が提出した始末書の中に「今後、同じ違反をした場合は、いかなる処分もお受けします」という一文が入っていました。

この一文は有効なのでしょうか?
また、このような一文が入っていても問題ないのでしょうか?

始末書にそのような一文が入っていたとしても、その部分については法的には無効と考えられますし、後述の理由により、むしろその一文は無い方が良いと言えます。

もっと詳しく

始末書の中に「今後、同じ違反をした場合は、いかなる処分もお受けします」という一文が入っていたという事ですが、これにはいくつか問題点があります。

 

この一文は有効?

一つは、「いかなる処分も受ける」という部分が有効なのかという点です。

 

 

そもそも、懲戒処分を行う場合は、その懲戒処分が妥当なのかどうかという権利の濫用の問題があります。

 

例えば、5分程度の遅刻をしたからと言って懲戒解雇したとなると、それはさすがに無効になります。

 

 

では、以前提出してもらった始末書に「再度同様の事を行った場合はいかなる処分も受ける」と書いてあった場合はどうなるでしょうか?

 

 

会社は、前回の始末書に書かれてあった通りに、思い切って懲戒解雇たらどうなるか?

 

 

それはもちろん、無効になります。

 

 

労働契約法第15条に、

「社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」

と記載されていて、数分の遅刻を数回したぐらいで懲戒解雇できないからです。

 

 

これは、労働者本人が「いかなる処分も受ける」という書類を提出していたとしても同様です。

 

そのため、「今後、同じ違反をした場合は、いかなる処分もお受けします」という一文は全く意味が無いということになります。

 

その一文が入っていることで心証が悪くなる可能性も?

もしも、今回の労働者がいろんなトラブルを繰り返して、最終的に解雇したとします。

 

その時に、その労働者が解雇の無効を主張して訴えた場合にどうなるでしょうか?

 

 

裁判となった場合、会社としてはその労働者がこれまでどのような違反を繰り返してきたかを立証しないといけません。

 

 

もちろん、証拠書類としてそれまでの始末書を裁判所に提出することになるのですが・・・・

 

 

その始末書に「今後、同じ違反をした場合は、いかなる処分もお受けします」という一文が入っていたら裁判所はどのように感じるでしょうか?

 

 

「この会社は、他の社員にもこんな始末書を提出させているのだろうか?」

「もしかしたら、ブラック企業なの?」

 

というような心証を与える可能性もあると個人的に思っています。

 

やはり、その一文は無い方が良い

労働問題とは違いますが、過去に当事務所の依頼料を滞納した会社がありました。

 

 

その際に、支払計画を立ててもらって書面で出してもらったのですが、その書類に書いてあったんです。

 

「この書面に違反した場合はいかなる処分もお受けします」って。

 

 

当時の私の予想として、おそらく支払計画どおりには払ってくれず、最終的には裁判になるのでは?と感じていました。(実際、払ってくれなかった)

 

そんな時に、証拠としてこの書類を出すのはどうなんだろう?

 

こっちは悪くないのに、外部の人が見たら「無理な取り立てをしてるんじゃないか?」という印象を受けるかもと思い、この一文を削除して再度提出してもらったことがあります。

 

 

そもそも、こんな一文なんて無効になると思いますし、第三者からの印象が悪くなるのなら、この一文はむしろ無い方が良いと思います。

 

そしてそれは、始末書でも同じだと考えています。

 

今回のポイント

  • 始末書の「今後、同じ違反をした場合は、いかなる処分もお受けします」という一文はそもそも効果が無い
  • 第三者から見ると、印象が悪くなる可能性がある。
  • 結論として、その一文は無い方が良い。